脚下にかがやく。人のいうなる死は爰《ここ》に、人のいうなる生は彼処《かしこ》に、しかも壮と厳と、美と麗と、人が自らせばめた社会の思いおよばぬものは、わが立つ所ならずして、いずれにあるのだろう、七時すぎ、浅間の宿についた。雪中十時間。私はかなり疲れていた。

    差切新道、山清路

 木曾路に入ろうという計画をよして、きょうは西条へとむかう。
 松本平から見あげられる連山に分れて、正午西条についた。停車場の出口に見張《みはり》をしている巡査に、どこの宿がよかろうかときいて、古松屋というのに荷をおろす。山清路への案内を求むれば、「善さんとこ聞いて、来い、音さんどうだ」の末、ないという。さらばと二人は身支度して泥路をふむ。ゆく事しばし案内者を求めえて、雪斑なる聖山をのぞみつつ、県道を進む事二十町ほど、左、郡道、差切新道と、石のみちしるべあるところより折れて、すたすた仁熊、細田、赤松と、麻績《おみ》川にそうて、やや降り道。
 洗った足袋がつまるとて、M君は頻《しき》りに足をいたがる。草鞋《わらじ》も二度切った。一時五十分差切についた。岩は聳《そび》え、滝は氷っていた。進みゆけば小トンネルい
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