。そして石の神様は人の子を守るとも思はれた。道のべにさういふ石があれば、人々はおほかた小石をそなへるらしい。
 私どもが山へゆけば、案内者は道の心おぼえに、大きい石の上に小石を積む。これが賽の神に石を手向けた名残か、どうか知らねど、蔵王山の賽の河原の石積みは、正しく御仏に縁を結ばうとするのであらう。賽の河原といふ所は、蔵王のみか、箱根にもあり、浅間山にもある。日本は火山の多いからでもあらうが、私の狭い山の旅ですら、そこでも此処でも、賽の河原と名のつく焼石原を踏んだ。いや賽の河原は、海べにもある。さういふ所では、大抵、石を積む。私など子どもの時、恐しいので嫌ひであつた地獄絵のからくりでも、「一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為」とか、子どもが石をつむ。無慈悲な鬼がそばからこはす、子どもが泣く。地蔵様が慰めて下さる。
 大きい石の上に石を積むのみか、洞穴などの廻りにも積む。現に蘇峰先生の名となつた阿蘇の火口のほとりに、参詣者たちは岩やら石やらを積み重ねる。これが讚岐に残つてゐる古墳、積石塚などとどういふ関係があるか、私は知らぬ。なにせよ小石をつむやうな所は、里遠からぬ地では、坂路などに多
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