つがつして飢えていた。――彼らの赤い眼は、ただ私が動かなくなりさえしたら私を餌食にしようと待ちかまえているように、私の方を向いてぎらぎらと光っていた。「この井戸のなかであいつらはいったいどんな食物を食いつけてきたのだろう?」と私は考えた。
 彼らは、私がいろいろ骨を折って追い払おうとしたのに、もう皿のなかの食物をちょっぴり残しただけで、すっかり食いつくしてしまっていた。私はただ手を皿のあたりに習慣的に上げ下げして振っていたのだが、とうとうその無意識に一様な運動は効き目がなくなってしまった。貪欲《どんよく》にも鼠どもはちょいちょい鋭い牙《きば》を私の指につきたてた。私は残っている脂っこいよい香のする肉片を、手のとどくかぎり革紐にすっかりなすりつけて、それから手を床からひっこめて、息を殺してじっと臥ていた。
 初めはその飢えきった動物どもも、この変化に――運動の中止されたのに――驚きおそれた。彼らはびっくりして尻込みした。井戸の方へ逃げたやつも多かった。しかしこれはほんのしばらくのことにすぎなかった。彼らの貪欲をあてにしたのは無駄ではなかった。私が身動きもしなくなったのを見てとると、いちば
前へ 次へ
全38ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ポー エドガー・アラン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング