ん大胆なやつが一、二匹、枠の上に跳びあがって、革紐を嗅《か》いだ。これがまるで総突撃の合図のようであった。彼らは井戸から出てきて、新たに群れをなして駆け集まってきた。枠の木にかじりつき――それを乗りこえ、そして幾百となく私の体の上に跳びあがった。振子の規則正しい運動などはちっとも彼らの邪魔にはならなかった。彼らは振子に撃たれるのを避けながら、油を塗った革紐に忙しく群がった。彼らは押しよせ――群がって私の上に絶えず積みかさなった。咽喉の上でのたうちまわった。その冷たい唇が私の唇を探した。彼らの群がってくる圧迫のために私はなかば窒息しかかった。なんとも言いようのない不快な感じが胸に湧きあがり、じっとりとした冷たさで心臓をぞっとさせた。それでも一分もたつと、私はこの争闘もやがて終ってしまうだろうと感じた。私は革紐の緩むのをはっきりと悟った。すでに一カ所以上も切れているにちがいないことがわかった。超人間的の決心をもって、私はじっと[#「じっと」に傍点]横たわっていた。
 私の予想はまちがっていなかった、――忍耐も無益ではなかった。やっと私は自由[#「自由」に傍点]になったのを感じた。革紐は幾す
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