ニまで届けた。
ミニョー父子銀行の行員、アドルフ・ル・ボンの証言。当日の正午ごろ、彼は四〇〇〇フランを二個の袋に入れてレスパネエ夫人とその住宅へ同行した。扉が開くとレスパネエ嬢があらわれて彼の手から一つの袋を受け取り、老婦人はもう一つを取ってくれた。彼はそれからお辞儀をして立ち去った。そのとき、路上には誰も見えなかった。裏通りで、――ひどく淋しいところである。
仕立屋、ウィリアム・バードの証言。その家へ入った者の一人であった。イギリス人で、パリに二年住んでいる。最初に階段をのぼった者の一人で、争う声を聞いた。荒々しい声はフランス人の声であった。数語わかったが、いま全部は思い出せない。『畜生《サクレ》!』と『|こらッ《モン・ディユ》!』とははっきりと聞いた。そのとき、数人の人が格闘しているような音――ひっかいたりつかみ合ったりする音がした。鋭い声のほうは非常に高く――荒々しい声よりも高かった。イギリス人の声ではないことは確かだ。ドイツ人の声らしかった。女の声だったかもしれぬ。ドイツ語はわからない。
以上の証人のうち四名は当時を思い出して、さらに証言した。レスパネエ嬢の死体の見つかっ
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