ることの出来るもので、而も甕《ミカ》・壺《ツボ》の様に蓋はなく、上に口をあいてゐたものと思はれる。
処が又、こゝに毛色の変つた一類の籠がある。其は火袁理《ホヲリ》[#(ノ)]命の目無堅間《マナシカタマ》・熊野大神の八目荒籠《ヤツメノアラコ》・秋山下冰壮夫《アキヤマノシタビヲトコ》の形代《カタシロ》を容れたといふ川島のいくみ竹の荒籠などぼつ/\[#「ぼつ/\」に傍点]見えてゐるのが其で、どうやら供物容れが神の在処であつたことを暗示してゐる様である。増穂残口《マスホザンコウ》などを驚かした、熊野の水葬礼に沈めた容れ物は、実は竹籠であつたのであらう。かうした場合に、流失を防ぐのに一番便利な籠は、口の締め括りの出来る髯籠であつた筈である。死人を装うて、鰐対治に入つて行かれた大神の乗物が、長く熊野に残つてゐたことは、物忘れせぬ田舎人の心を尊まずにはゐられない。
籠がほゞ神の在処なることが確かであり、同時に供物の容れ物となつてゐたことが、幸に誤でなければ、直ちに其に盛られた犠牲は供物である以前に、神格を以て考へられたことに、結着させてもよからうと思ふ。百取《モヽト》りの机代物《ツクヱシロモノ》を置
前へ
次へ
全43ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング