筬の音
――わが幼時の記憶――
折口信夫
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)恋《こひ》の淵《ふち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柿|主《ぬし》なり
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「車+網のつくり」、第3水準1−92−45]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ほろり/\
−−
わが車は、とある村に入りぬ。
軒ごとに吊りほせるかけ菜の、あるかなきかの風にゆらめきて、鶏のこゑ、長閑にきこゆ。
轍におこる塵かろく舞ひ、藪ぎはの緋桃の花、ほろり/\散る。高安の春、いま闌なり。
いつしか、村をはなれつ。から/\と軋り行く※[#「車+網のつくり」、第3水準1−92−45]《おほわ》の右左、みだれ咲く菜の花遠くつゞきて、蒸すばかり立ちのぼる花の香の中を、黄なる、白き、酔心地に蝶の飛びては憩ひ、いこひてはとぶ。いづこともなく、筬のおときこゆ。
見れば、わが行く手にあたりて、常緑樹の森あり。音は、
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