式によつて、思想としては、大に見直す事の出来るものとするのだともいふことが出来る。
兎も角も、此情緒を発表する趣向は、作物の根柢となるものであるから、適切なる言語形式を捉へることは勿論、極めて厳密な美的考察を要する。
事物を定義することに無頓着であつた古人は、伝習的に用ゐ来つた歌学上の専用語を、自由に用ゐて居る為に、たゞこゝろ[#「こゝろ」に白丸傍点]といふ一語を以て、趣向にも、亦内容にも通じて使つて居る。下に説かうとする数々の語も、皆かういふ風に、使用者が読者の直覚を予期してかゝつて居たのであるから、今日之を説くには、非常な困難を感ずる次第であるが、みな之は、言語の意味の内包が明かでなかつた為に生じた結果で、歴史的に発展の過程を考へて見れば、歌合行はれ、歌式出で、歌話が物せられ、師範家が出来、批評家が現はれた中に、雑多な用法をせられ乍ら、其処に、ある一道の集合的概念を抽き出す事が出来ると思ふ。此意味における専用語の意味を説明すると共に、発展の路において、経て来た異なる意味の用ゐ方をも、示したい考《かんがへ》である。勿論、ある意味と、正反対の意味に用ゐられた例証は、自分といへども、少か
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