ヘン》で会うた女が、自分の家は玉島川の川上にあるというて居つたが、その処女が別《ワカレ》を惜んで領布を振つた、その姿を見てから、玉島の川上の家が、これかあれかと心あてに恋しい心地がするといふのであるが、形体的内容によつて惹起せられた感情は、まづ若鮎のひれふるといふ語によつて、若鮎の泳いで居る様の感覚的仮象を思ひ浮べる。この美的仮象は、次に来るこの川上といふ語によつて、一層深められる。此に到つては、若鮎と処女とを判然とわけては、想像のうへにあらはれて来ない。処女のことを述べたのだといふ意識は明かにありながら、感覚的仮象から出た鮎の川に泳ぐ様の色彩を、実質的内容から来た空想的仮象の上に被らしめて居るといふべきである。



底本:「折口信夫全集 12」中央公論社
   1996(平成8)年3月25日初版発行
初出:「わか竹 第二巻第五・十一号」
   1909(明治42)年5、11月
※底本の題名の下に書かれている「明治四十二年五・十一月「わか竹」第二巻第五・十一号」はファイル末の「初出」欄に移しました
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:

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