けられねばならぬ。象徴詩も彼等を満足せしむることは覚束ない。
形体的内容と、実質的内容との結合する点において、屡矛盾がある。是れ欠陥であると共に、亦これを利用して、好結果を収めることがある。落語とか笑府とかは、畢竟思想より直通して居る実質的内容と、言語形式によつて生ずる所の形体的内容とを並行せしめて、ある滑稽な内容を形《カタチヅ》くるのを目的とするのである。
川柳に於ては、最も著しくこの傾向を認めることが出来る。たとへば、
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居候醋のこんにやくをいつも喰ひ
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といふ句において、単に実質的内容なる食客《シヨツカク》がいつもすのこんにやくの[#「すのこんにやくの」に傍点]と小言をいはるゝとだけでは、何の興味もない。形体的内容に於て、醋あへの[#「醋あへの」に傍点]蒟蒻《コンニヤク》を常食として居るといふ意味があらはれて、実質的内容と並行して、しかも終には読者の観念界に実質的内容にある色彩を帯びた第二次思想となつてあらはれる点に、多大の興味があるのである。語をかへていふと、形体的内容と実質的内容とによつて形《カタチヅ》くられたる集合概念を抽き出す
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