限り特に根人《ネビト》と言ふ事も多い。此は男であつて、而も、神事に大切な関係を持つてゐるもので、勢頭神《シヅカミ》又は、大勢頭《ウフシヅ》など言ふ者が、巫女中心の神道に於ける男覡である。根人腹《ネンチユバラ》(原と宛て字するのと一つであらう)と言ふ事は、氏子・氏人の意が明らかにある。
根神《ネガミ》に仕へる女を亦、根神《ネガミ》と言ふ。根神おくで[#「根神おくで」に傍線](又、うくでい)と言ふが正しい。併し、ある神と、ある神専属の巫女との間に、区別を立てる事をせぬ琉球神道では、巫女を直に、神名でよぶ。根神おくで[#「根神おくで」に傍線]の略語と言ふ事は出来ないのである。御《オ》くでは、くで[#「くで」に傍線]とかこで[#「こで」に傍線]とか言ふ語が語根で、託女と訳してゐる。古くはやはり、聞得大君《チフイヂン》同様、根所《ネドコロ》たる豪族の娘から採つたものであらうが、近代は、根人腹《ネンチユバラ》の中から女子二人を択んで、氏神の陽神に仕へる方を男《オメ》(神《ケイ》)託女《オクデ》、陰神に仕へるのを、女《オメ》(神《ナイ》)託女《オクデ》と言ふ、と伊波氏は書いてゐられる(琉球女性史)。地方にあつては、厳重に此通りも守つては居ない様である。此根神おくで[#「根神おくで」に傍線]の根神《ネガミ》が、一族中に勢力を持つてゐるので、一村が同族である村などでは、根神《ネガミ》はのろ[#「のろ」に傍線]を凌ぐ程の権力がある。根神《ネガミ》はのろ[#「のろ」に傍線]の支配下にあるのであるが、のろ[#「のろ」に傍線]と仲違ひしてゐるものゝ多いのは、此為である。而も村の神事には、平生の行きがゝりを忘れて、一致する様である。根所々々にも、のろ[#「のろ」に傍線]の為には、一つの御拝所《ヲガン》であり、根神も、一方に村の神人《カミンチユ》である点から、根所以外の祭事にも与つて、のろ[#「のろ」に傍線]の次席に坐る。
祖先崇拝が琉球神道の古い大筋だとの観察点に立つ人々は、のろ[#「のろ」に傍線]が政策上に生まれたものと見勝ちである。けれども、祖先崇拝の形の整ふ原因は、暗面から見れば、死霊恐怖であり、明るい側から見れば、巫女教に伴ふ自然の形で、巫女を孕ました神並びに、巫女に神性を考へる所に始るのである。地方下級女官としてのろ[#「のろ」に傍線]の保護は、政策から出たかも知れぬが、のろ[#「の
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