ニガミ》の巫女たちで、今帰仁《ナキジン》の阿応理恵《アオリヱ》は独身、辺土のろ[#「のろ」に傍線]は表面独身で、私生の子を育てゝゐる。其外のろ[#「のろ」に傍線]の夫の夭折を信じてゐる事も、国頭地方に強い。神の怨みを受けると信じてゐたのである。此は、国頭《クニガミ》地方が、北山時代からの神道を伝へて、幾分、中山・南山の神道と趣きを異にしてゐる所があるからであらう。久高島では、結婚の時、嫁が壻を避けて逃げ廻る習慣があつたが、其は夜分のことで、昼の間は現れて為事を手伝うたりした。夜になつて壻が大勢の友人と嫁を捜すのをとじとめゆん[#「とじとめゆん」に傍線]即|嫁《ヨメ》さがしと称する。此島には現在のろ[#「のろ」に傍線]が二人居るが、其一人の老婆は、七十余日の間逃げ廻つたと言ふので有名である。
聞得大君《チフイヂン》は、我が国の斎宮・斎院と同じ意味のもので、其居処|聞得大君御殿《チフイヂンオドン》は、琉球神道の総本山の様な形があつた。此琉球の斎王が、皇后の上に在つたと言ふ事は、琉球の古伝説に数多い、巫女と巫女の兄なる国主・島主の話を生み出した根元の、古代習俗であつたのである。
久高島の結婚の時に合唱する謡
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女神殿《ヰナグメガナサ》は、君《キミ》の愛《メデ》(?)。男神殿《ヰキガミガナサ》は、首里殿愛《スンヂヤナシメデ》。
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と言ふ文句は、新郎なる此島男は、国王に愛せられむ。新婦なる此女は、聞得大君《チフイヂン》に愛せられむとの意であらう。民間伝承にすら、此様に国王と、聞得大君とを双べ考へてゐる。
琉球本島を分けどつてゐた、昔の北山・南山・中山の三国は、各大同であつて小異を含んだ神道を持つてゐて、中山は聞得大君、南山は佐司笠按司《サスカサアジ》、北山は阿応理恵按司《アオリヱアジ》を最高の巫女としてゐたものであらう、と柳田先生も、伊波氏も言うてゐられる。其三巫女の代理とも言ふべきものを、首里三|平等《ヒラ》(台地)に置いた。南風《ハエ》の平等《ヒラ》には首里殿内《シユンドンチ》、真和志の平等《ヒラ》には真壁殿内《マカンドンチ》、北《ニシ》の平等《ヒラ》には儀保殿内《ギボドンチ》なる巫女の住宅なる社殿を据ゑて、三つの台地に集めた、三山豪族たちの信仰の中心にしてあつた。而も、殿内々々には、聞得大殿同様の祭神を祀らして居た。此等の殿
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