ガン》を時々発掘すると、白骨が出て来る。此を、骨霊《コチマブイ》と言ふ。
琉球神道の上に見える神々は、現にまだ万有神である。恐しいはぶ[#「はぶ」に傍線]は、山の神或は、山の口(蝮《クチ》か)として、畏敬せられ、海亀・儒艮《ジユゴン》(ざん=人魚)も、尚神としての素質は、明らかに持つてゐる。地物・庶物に皆、霊があるとせられ、今も島々では、新しい神誕生が、時々にある。
而も其中、最大切に考へられてゐるのは、井《カア》の神・家の神・五穀の神・太陽神・御嶽の神・骨霊《コチマブイ》などである。大体に於て、石を以て神々の象徴と見る風があつて、道の島では、霊石に、いびがなし[#「いびがなし」に傍線]〔神様〕といふ風な敬称を与へてゐる処もある。又一般に、霊石をびじゅる[#「びじゅる」に傍線]といふのも「いび」を語根にしてゐるので、琉球神道では、石に神性を感じる事が深く、生き物の石に化した神体が、沢山ある。井《カア》の神として、井の上に祀られてゐるものは、常に変つた形の鐘乳石である。此をもびじゅる[#「びじゅる」に傍線]と言うてゐる。ある人の説に、びじゅる[#「びじゅる」に傍線]は海神だとあるが、疑はしい。家の神の代表となつてゐるのは、火の神《カン》である。此亦、三個の石を以て象徴せられて、一列か鼎足形かに据ゑられてゐる。巫女の家や旧家には、おもな座敷に、片隅の故《ことさ》らに炉の形に拵へた漆喰塗りの場処に置く。普通の家では、竈の後の壁に、三本石を列べて、其頭に塩・米などの盛つてあるのを見かける。火の神の祭壇は、炉であつて、而も家全体を護るものと考へられてゐるのである。家があれば、火の神のない事はなく、どうかすれば、神社類似の建造物の主神が皆、火の神である様に見える。巫女の家なる祝女殿内《ノロドノチ》、一族の本家なる根所《ネドコロ》の殿《トオン》、拝所になつてゐる殿《トオン》、祭場ともいふべき神あしゃげ[#「神あしゃげ」に傍線]、皆火の神のない処はない。併し恐らくは、火の神の為に、建て物を構へたのは一つもなく、建て物あつて後に、火の神を祀る事になつたので、某々の家の宅《ヤカ》つ神、と考へて来たのに違ひない。
火の神と言ふ名は、高級巫女の住んでゐる神社類似の家、即、聞得大君御殿《チフイヂンオドン》・三平等《ミヒラ》の「大阿母《ウフアム》しられ」の殿内《トヌチ》では、お火鉢の御前《オマ
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