踏襲してその穴をうめるのは当然の勢いのようになっていた。で「廓怪談敷島物語」だの「妲妃のお百」だのというものは、みな田之助・半四郎系統の女形の芸なのである。
源之助に一番困るのは、五代目菊五郎に接近したために、菊五郎の芸をすべて取り入れなければならなくなったことである。一体先代の菊五郎は実に芸の範囲が狭そうに見えて実は広かった人で、元来立役だが、女形も随分したし、それを源之助がほぼうつしているのである。
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今の菊五郎も近頃になって、その家の芸たる女形をして、あの肥った身体でよく一つの面を拓《ひら》いている。踊りの場合は、断篇としては実によい女を表現する。併し、何と言っても真女形《まおんながた》にはなれぬ。先代と比較して今の菊五郎という役者は、役柄の範囲が広い様に見えて、実は狭い役者である。
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所作事《しょさごと》は源之助の得意とするところではないので、先代菊五郎が、「茨木」「戻橋」「土蜘蛛」など沢山の所作事《しょさごと》をしているのはうつさなかった。けれども役者である以上、全然踊らぬのではない。踊りを出し物にする役者が、外にあったと言う訣《
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