には、里へ祝福に降りて来たので、その時には、いろ/\な土産ものを持つて来て、里のものと交易して行つたのです。此交易をした場所を、いち[#「いち」に傍線]と言ひました。後の「市」の古義なのです。山人・山姥が市日に来て、大食をした話し、無限に這入る小袋にものを詰めて行つたと言ふ伝説は、さうした、山人が里のものをたくさんに持ち還つた記憶があつて出来た話しだと思ひます。山人が持つて来た土産には、寄生木《ホヨ》・羊歯の葉、その他いろ/\なものがあつたので、今も正月の飾りものになつてゐますが、削りかけ・削り花なども、その一種だつたのです。太宰府その他で行はれる鷽替への神事は、その交易の形を残したのでせう。鷽も、削りかけの一種と見られるからです。里の人達は、これらのものを山人から受けて、これを、山人の祓ひをうけたしるし[#「しるし」に傍線]として家の内外に飾つたのでした。
これから考へて見ますと、門松も、やはり山人のもつて来た山づと[#「山づと」に傍線]の一種であつたに相違ないのですが、其木は必しも一種ではなかつたかと思ひます。それには、かう言ふ事が考へられるのです。此山人の祝福には、その年の田の成
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