五は、族長としての宴遊詞・其他の鎮魂詞といふ意味から出て、文学態度を多くとり入れたものである。憶良の私生活の歌詞の多いのも、此巻が憶良の手で旅人の作物の整理せられたものと見てよい。だから序引の文詞は憶良の作で、歌だけは、恐らく旅人の自作であらう。さうした歌書を献る事が、長上に服従を誓ふと共に、眷顧を乞ふ所以にもなるのであつた。「あがぬしのみ魂たまひて」の歌に、其間の消息が伝つてゐる。さうすると、巻五の体裁や、発想法の上にある矛盾も解けるのである。
巻五は、憶良の申し文とも言ふべき、表に旅人を立て、内に自らを陳べた哀願歌《ウタヘウタ》の集である。此巻などになると、二・三・六其他には隠れた家集の目的が、露骨に出てゐると見てよい。
かうして見ると、三・四には、全体として諷諭鎮魂・暗示教化の目的が見えると言へる。巻五には、魂の分割を請ふ意味が、家集進上の風と絡んでゐる様である。皆形を変へても、鎮魂の目的を含まないものはない。
三 ふり くにぶり うた
万葉や記・紀に「門中《トナカ》のいくりにふれたつ……」「下つ瀬に流れふらふ」「中つ枝に落ちふらはへ」など、ふる[#「ふる」に傍線]
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