ず、霊物の逸出を禦《ふせ》ぐ為に結び下げて置くものを、ひも[#「ひも」に傍線]と言ふ。此は外物の犯さぬ様に、示威するものらしい。紐は、身にとり周らさずともよい。懸けるかつけるかしてあればよい。此変化したのが、いれひも[#「いれひも」に傍線]であり、したひも[#「したひも」に傍線]なのである。こまにしき[#「こまにしき」に傍線]・からにしき[#「からにしき」に傍線]など、紐の枕詞に近い誇称は、悪を却ける為の、讃辞であつたらしい。必しも、ひも[#「ひも」に傍線]の古義には、下|佩《オ》びを直に指す処はない。
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難波津に御船|泊《ハ》てぬと聞え来ば、ひもときさけて、立ちはしりせむ(巻五)
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とある憶良の歌は、恋人を待ち得た性の焦燥を言ふのではない。此は、長者の霊の游離を防ぐために、男もすることになつてゐたのだ。
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こま錦 ひもとき易之《カハシ》 天人《アメヒト》の妻どふ宵ぞ。我も偲《シヌ》ばむ(巻十)
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の歌なども、直に閨《ねや》ごとの予期を言うてゐるのではない。
易之は「かへし」と訓むべきなのかも知
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