色々な疑ひが湧く。
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(い) 宮廷詩として人麻呂の作と認められてゐる物
(ろ) 人麻呂の作と認められながら、歌の対象たる人物との関係の誤解せられたもの
(は) 他人の歌でありながら、其歌を作らせ、又は実際に謡つた人の作物となつた物
(に) 他人の為に代作した歌から、人麻呂の境遇を推測せられてゐるもの
(ほ) 人麻呂の作でなくて、其作物ときめられたもの
(へ) 人麻呂の作でゐて、民謡になつたもの
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有名な詞人であり、代作歌人であつた為に、かうした誤解が重《かさな》つて来る。第一期の宮廷詩|即《すなはち》記・紀の大歌は、巫覡の空想と言ふ事を考へに入れると、伝説上の作者は信ぜられぬ。第二期の大歌は万葉集の真作者と伝説上の作者とは別人であるのが大部分である。
かうした代作を役とする宮廷詞人は、何時まで存続したか。それは大歌に新作の詞章を常に用ゐて居た間は、続いたであらう。併し、この意味に於ける新しい大歌の外に、記・紀伝承の固定した大歌の勢力は、残つてゐた。平安朝になると、万葉集の新大歌はすべて姿を消した。さうして此期の大歌は、旧大歌の亡び残りや、新
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