、声楽方面は東風俗《アヅマフゾク》なる「風俗歌」を分化してゐたからである。風俗歌が短歌を本位とせないのは、東の催馬楽と言つた格にあつたからである。古今集のは、まだ祭儀関係は想像出来るが、万葉の十四の東歌になると、さうした輪廓さへも辿られない。だが、恒例又は臨時に、諸方の風俗の奏上せられた本義を推して見れば、巻十四の蒐集の目的は略《ほぼ》わかる。其中には固より、都からの旅行者の作もあらう。或は東人の為に代作したものもあらう。漫然と東風の歌と感じてとり収めたのもあらう。が、一度は、東人の口に謡はれたものが、大部分であらう。東の国々の風俗《クニブリ》の短歌の伝承久しいものや、近時のものや、他郷の流伝したものや、さうした歌の宮廷で一度奏せられたあづまぶり[#「あづまぶり」に傍線]の詞曲が残つたものらしい。
隼人舞や、国栖の奏などは、宮廷の歴史から離すことの出来ぬ古いものになつてゐる。其他の旧版図の国々のくにぶり[#「くにぶり」に傍線]、就中《なかんづく》悠紀・主基の国俗などゝは、性質が違ふ。新附の叛服常ない国である。そのくにぶり[#「くにぶり」に傍線]は重く扱はねばならぬはずである。其奏せられ
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