時代の大歌所のした試みを其後再びしたものなる事を示して居る。
併し、古今の東歌が、悉《ことごと》くは東人の製作と思はれぬ様に、本集の東歌も程度の差こそあれ、必しも皆が皆まで、東人の作物でなく、一時の旅行者の即興や、単なる誤解から、他国の物を混へたと見えるものも、段々ある。併し、其々の歌が証拠立てる如く、あづま[#「あづま」に傍線]根生ひの歌が、言ふまでもなく大部分を占めて居る。
東歌は、創作として個性に深く根ざしたものと言ふよりも、民謡として普遍的な感情をとり扱うたものが多い。個性の強く現れて居る様に見えるものも、実は、一般式の感動に特殊の魅力を添へる為の刺戟を強調したと言ふべきものが多い。更に民謡の一の特色として、地名をよみこんだものゝ多い事である。地名に注意を惹かれるのは、他国人でなければならぬ。東歌に地名の多いのは、偶《たまたま》東歌が真の東歌でない事を証して居る、と云ふ人もある。併し、其は民謡と地名との関係に理会がないから出た議論である。民謡なればこそ地名を詠みこんで、土地に即した印象を与へようとするのである。
民謡は流行性を持つて居るから、各地に転々して謡はれる。さうして、地
前へ 次へ
全19ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング