で表現せられた東人の生活意識は、此亦一時代前の文化・思想を示して居、他の十九巻の歌と比べると、確かに直情風で素朴な発想を、張りつめた情熱を以て謡うて居る。其故、芸術の順序からして、此に宮廷詩よりも前の位置を与へる事になる。
あづま[#「あづま」に傍線]なる地名の内容となつて居る地域は、時代々々で違うて居る。実際の境界は、日本武尊の伝説に拘泥する事なく、変遷を重ねて来た。本集には、西は、足柄山を越えて遠江までも延び、東北は、奥州の果迄を籠めて居る。蝦夷の勢力の消長につれて、あづま[#「あづま」に傍線]の内容が伸びも縮みもした事であらう。あづま[#「あづま」に傍線]とは、畢竟「熟蝦夷生蝦夷《ニギエゾアラエゾ》の国」を意味して居たのである。尤、彼等の外にも、都人・屯田の民・帰化外人などは住んで居たのである。官吏・旅行者などが、土地・人事に絡んだ珍しい話の種を都に持つて帰つては、都人をして、愈異郷風な想像を逞しうさせる。かうした見方の下に在つた国であつて見れば、採風の試みをすれば、第一にあづま[#「あづま」に傍線]が考へに浮んだ事であらう。古今集の大歌所の歌に、東歌が多く登録せられたのも、万葉
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