人言のしげきこのごろ。玉ならば、手に纏《マ》きもちて、恋ひざらましを(四三六)
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人の評判がうるさい此頃だ。あの愛人が玉だつたら、人目につかない様に手に纏きつけておいて、常に離さないで暮して、こんなにこがれないで居られたらうのに……
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この歌は、表現が二つに別れて、気の多い言ひ方をしてゐます。五句が「手にまきもちてあらむと思ふ」と単純にあるべきのが、まう一つ別な方に進んで、「恋ひざらましを」といふ風に、結んでゐる。かうした表現は、万葉集の歌の悪い方面を示してゐることになります。一首の内容は、「あもとじも」の歌と同じ事を言つてゐるのです。この類型は非常に多いのです。かういふ言ひ方をするのは、まう一つ前に、霊魂なら、ある点すぐ自由に分離したり、結合させたりすることが出来るといふ考へがあつたからの事です。その表現が、霊《タマ》の中心観念から装身具の玉に移つて行つても、ついて廻るのです。文字の上にも、信仰の推移が、非常に影響してゐる事を考へなければなりません。
所が、玉の歌には、まだ相当に訣らない歌があります。

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沖つ波来
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