\も」が解けるのです。これは唯、今まで二人ねて居て淋しくは思はなかつたが、これからは、それが出来ないから、枕と二人寝しようよと言ふ事だけでは訣らないと思ひます。つまり、枕べに玉を置いておくのは、そこに、その人の魂があるといふ事なのです。其で完全な一人なので、そこへ自分を合せて二人となるのです。旅行とか、外出し又、他の場合、死者の床――の時には玉を枕べに添へて置く。さうすると、「たまどこ」といふ言葉で表される条件が整つて来ます。「たま床の外に向きけり。妹がこ枕」と言ふのは、もう魂がなくなつてゐる事を言つてゐるのです。この場合は、嫁にやつた娘と私と、二人分を表すものはないが、これくらゐで二人寝てゐるのだと条件不足だが、まあ、さう思うて寝ようと言ふ意味です。だから、枕辺に玉を置くまじつく[#「まじつく」に傍点]があつた事を、考へに入れて解かなければ、此等の歌は訣らないのです。
人麻呂の歌も、本道なら、枕に玉を置かなければならないのに、岩の枕だけだといふので、昔の人には、これだけで霊魂《タマ》がなくなつて死んでゐる事が訣つたのです。

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荒波により来る玉を枕に置き、吾こゝ
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