とりわけ、いはのひめ[#「いはのひめ」に傍線]は嫉妬の為に、恋しい夫の家をすら、捨てた。嫉む時、足もあがゝに、悶えたとある。きびのくろひめ[#「きびのくろひめ」に傍線]・やたのわきいらつめ[#「やたのわきいらつめ」に傍線]に心を傾けた仁徳天皇は、いはのひめ[#「いはのひめ」に傍線]に同棲を慂めるのに、夫としての善良さを、尽く現された。凡ての点に於て、人の世に生れて出たおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]とも言へる程の似よりを、此天皇はおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]に持つて居られる。其は殆ど双方の伝記で解釈のつかぬ処は、今一方の事蹟で註釈が出来る位である。今其一つを言はう。おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の上に、明らかに見えない事で、仁徳には著しく現れてゐる事がある。
       倭成す神の残虐
めとりのおほきみ[#「めとりのおほきみ」に傍線]は、帝を袖にした。はやふさわけ[#「はやふさわけ」に傍線]に近づいた。二人を倉梯《クラハシ》山に追ひ詰めて殺したのは、理想化せられた尭舜としては、いき方を異にしてゐると言はねばならぬ。
おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍
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