あり、あめのひほこ[#「あめのひほこ」に傍線]との国争ひに、蛮人でもし相な、足縄投げの物語りを残してゐる。醜悪であり幼稚であることが、此神の性格に破綻を起さないのである。普通人其儘の生活を持つことが理想に牾《もと》るものではない。
嫉みを受ける人として
多くの女の愛情を、身一つに納める一面には、必、後妻《ウハナリ》嫉みが伴うてゐる。万葉人の理想の生活には、此意味から、女の嫉妬をうける事を条件とした様に見える。
おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の、よみ[#「よみ」に傍線]から伴れ戻つた嫡妻《ムカヒメ》すせりひめ[#「すせりひめ」に傍線]は、へら[#「へら」に傍線]の様に嫉み心が強かつた。八十神と競争して取り得たやかみひめ[#「やかみひめ」に傍線]も、彼女の妬心を恐れて、生みの子をば、木の股に挟んで逃げた。倭への旅に上る時、嫉妬の昂奮を鎮める為「ぬばたまの黒きみけし……」の歌を作つてゐる。が其時に、嫉み妻に持つた愛は、ぬなかはひめ[#「ぬなかはひめ」に傍線]の門に立つて唱和した歌に見えたものと、変らぬ美しい愛であつた。
男には諸向き心を、女には後妻《ウハナリ》嫉みを認
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