無知な群集の感情其まゝである。
出雲には、おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]以上の人格を考へる事が出来なかつたから、其風土記にも知られ過ぎた神としての彼の生活は、其輪廓さへも書く必要がなかつたのである。処が播磨風土記に現れたおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]は、まだ神学の玉の緒に貫かれない玉の様に、断篇風に散らばつてゐる。あまりに、記・紀を通して見たおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]と距離があり過ぎる。尤《もつとも》、主人公として現れたおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の名を、他の誰の名と取り換へても、さし支へはないわけである。だがさうすれば、神話・民譚の上の或性格に属する話を、取捨する標準は、神話・民譚以後の神学を以てする事となる。どんな話でも、物語時代のおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の性格を組み立てゝ来た一要素なることは、事実である。或逸話は、おほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の性格として持つに適当な、経歴の一つと考へられて来たのである。
すくなひこな[#「すくなひこな」に傍線]との競走に、糞ではかま[#「はかま」に傍線]を汚した童話風な話が
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