み込みかけ、さうして略《ほぼ》、其輪廓だけは完成した時代であつた。此間に生きて、我々の文化生活の第一歩を闢《ひら》いてくれた祖先の全体、其を主に、感情の側から視ようとするのである。だから、其方の記録即、万葉集の名を被せた次第である。
政治史より民族史、思想史よりは生活史を重く見る私共には、民間の生活が、政権の移動と足並みを揃へるものとする考へは、極めて無意味に見える。此方面からも、万葉人を一纏めにして考へねばならなかつたのである。
其理想の生活
彼らにとつては、殆ど偶像であつた一つの生活様式がある。彼らの美しい、醜い様々の生活が、此境涯に入ると、醇化せられた姿となつて表れて居る。
其は、出雲びとおほくにぬし[#「おほくにぬし」に傍線]の生活である。出雲風土記には、やまと成す大神[#「やまと成す大神」に傍線]と言ふ讃め名で書かれて居る。出雲人の倭成す神は、大和びとの語では、はつくにしらす・すめらみこと[#「はつくにしらす・すめらみこと」に傍線]と言うて居る。神武天皇・崇神天皇は、此称呼を負うて居られる。倭成す境涯に入れば、一挙手も、一投足も、神の意志に動くもの、と見られて居
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