」に傍線]わんぱく坊主」など使ふ。即ご[#「ご」に傍線]が重母音になつたのだ。扨、かのてんごお[#「てんごお」に傍線]もやはり、此と同じく、手強《テゴハ》の義で手|強《ゴハ》うする>てごわうする>てごお(する)>てごお>てんごお、と言ふ風に、名詞化して来たと見るべきであらう。京阪のが[#「が」に傍線]行音は、勿論、鼻音であるから、てごお[#「てごお」に傍線]になる迄の間に、既に、撥音ん[#「ん」に傍線]のわりこみのあつたことゝ思はれる。
○晩と夜 晩と夜とは、今では多くの地方皆、おなじ事に考へてゐる様である。狂言記あたりに見える「晩ずる」といふ動詞は「夜になる」の意としか解かれてゐぬが「昏《クラ》くなる」位の意であらう。家忠日記天正十八年二月二十二日の条に「伊可御茶屋之普請は、晩より夜まで雨ふりかみなり」とあるのは、たそがれ・夕景などの意であらう。
○よさもと[#「よさもと」に傍線] 紀伊北牟婁郡長島辺を歩いてゐた頃に、行き逢うた人の話では、午後をよさもと[#「よさもと」に傍線]と言ふ由。八つ下りなどの意であらうか。右の地方の方の教示を乞ふ。尚午前・正午・午後・夕・夜などを表す方言を蒐めたい。
○つろく[#「つろく」に傍線] 東京・大阪の間を往来する者にとつては、東京と大阪とでは、すつかり語が違つてゐよう、と考へてゐた漠然たる予期が、思ひがけない語に会うて、其が外れて行くのに、驚くことが度々です。無機的な名詞の同・不同に就ては、さのみ意も牽かれぬが、動詞・副詞の同じものゝ多いのには、全く驚きます。相応・つりあひ・適当などの意のつろく[#「つろく」に傍線]といふ語、此も「身代につろく[#「つろく」に傍線]せぬおごり」或は「からだにつろく[#「つろく」に傍線]した着物」など言ひます。又、前のぼろい[#「ぼろい」に傍線]も、実は東京にも、下町辺の語の荒い人々の間には行はれてゐます。
○よど[#「よど」に傍線]・いたじきばらひ[#「いたじきばらひ」に傍線] 日向児湯郡|三《ミ》納辺で宵祭《ヨミヤ》をよど[#「よど」に傍線]、祭りの翌日を、いたじきばらひ[#「いたじきばらひ」に傍線]と言ふ。前のをけあらひ[#「をけあらひ」に傍線]と、成り立ちが似てゐる。
○ぜんじやく―に―おう[#「ぜんじやく―に―おう」に傍線]・れんじやく―に―おう[#「れんじやく―に―おう」に傍線]・ぢぞ
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