ノ)]神社など、桙に関係ある社が、ざらに全国に分布してゐる(神名式)ことをも、傍証に立てる事が出来る。
比々良木八尋桙根底不附国《ヒヽラギノヤヒロホコネソコツカヌクニ》(播磨風土記逸文)とあるのから見ても、此桙は人を斬るものでなく、地に樹てゝ、神を祈る物なる事は訣る。桙を以て戦に出るのは、随時に随処に衝き立てゝ、神意を問ふことが出来る、と言ふことなのである。戦場往来に用ゐられた旗さし物は、此方面から這入るのを順路とすべき様である。

     五

学問に、常の歎きとする処は、興味の立ち遅れと言ふことである。研究の緒口《イトグチ》がつき始めた時分には、事実はあらゆる関係に、首尾両端を没して了うてゐる。此幡の問題の如きも、悉く外来の旗と習合を遂げた後、幾百年の花紅葉が散り過ぎて、後世風《オトツヨブリ》の源氏・楠家の旗だと称する贋物類までも、手に取ればぼろ/″\と崩れる様になつた頃、やつと物になりかけて来たのである。「武備志」を見ても、四神・牙神・牙旗神及び其他の旗神の祭文と言ふものが見えて、軍陣に神を勧請するのは我国の古風ばかりでなかつた事が知られる。但、此際にも直ちに、唐土伝来と言ふ即
前へ 次へ
全24ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング