、出くはさずにすんだ。かの語を「産る」と説くのは、主に賀茂のみあれ[#「みあれ」に傍線]に惹かれた考へであるが、実の処みあれ[#「みあれ」に傍線]其物が、存在を明らかに認める、即、出現と言ふ意に胚胎せられた語だと信じられる。
此事は柳田国男先生も既に考へて(山島民譚集)居られる。尤、神或は神なる人にかけて、常に使ひ馴れた為、自然敬意を離れては用ゐる事は無くなつてゐた。其一類の語に「たつ」と言ふのがある。現在完了形をとつたものは、「向ひの山に月たゝり見ゆ(万葉巻七)」など言ふ文例を止めて居る。此語は単に、今か以前かに標準を据ゑて、進行動作を言ふだけのものではなく、確かに「出現」の用語例を持つて居た。文献時代に入つては、月たち[#「月たち」に傍線]・春たつ[#「春たつ」に傍線]などに纔かに、俤を見せて居たばかりで、敬語の意識は夙くに失はれてゐる。
諏訪上社の神木に、桜たゝい木[#「桜たゝい木」に傍線]・檀たゝい木[#「檀たゝい木」に傍線]・ひくさたゝい木[#「ひくさたゝい木」に傍線]・橡の木たゝい木[#「橡の木たゝい木」に傍線]・岑たゝい木[#「岑たゝい木」に傍線]・柳たゝい木[#「柳たゝ
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