文學に於ける虚構
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)繪空事《エソラゴト》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)北陸を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まざ/\
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このごろ、短歌の上で虚構の問題が大分取り扱はれて來た。文學に虚構といふことは、昔から認められてゐた。日本文學では、それを繪空事《エソラゴト》・歌虚言《ウタソラゴト》などゝ言つて、文學には嘘の伴ふものだといふことを、はつきり知つてゐた。寧、藝術は嘘で成り立つてゐる。其肝腎の部分は嘘だと言つてゐる。だから昔の人は藝術には信頼せず、作家にしても、戲作などゝ自分自身を輕蔑してゐた。今言はれてゐる虚構といふことも、此態度の延長に過ぎない。
しかし、廣い意味で言へば、藝術家のする事に、虚構が一つも入らぬといふことはない。たゞ、まざ/\とした虚構が、人に感じられることがいけないのだ。そこで、文學には本來虚構
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