までゞ、完全に序歌となつてゐる訣である。かう言ふ形が「とも」の本格の用語例の外貌であつたに違ひない。
又、「木にはありとも」で見ても、「……木にはありとも、君が手馴れの琴の木[#「琴の木」に白丸傍点]にしあるべし」と言ふ意識は、忘れながらにも、失せきらなかつた事を見せてゐる。
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にほどりの「息長《オキナガ》川は絶えぬとも」、君に語らむこと つきめやも(同巻二十)
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「息長川は絶えぬとも絶ゆることなく[#「絶ゆることなく」に傍点]、其如く、君に語らむことも絶え尽きめやも」と言ふのである。
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島の宮 上の池なる放ち鳥。あらびなゆきそ。君不座十方《キミイマサズトモ》(同巻二)
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「君いまさずとも在すが如く[#「在すが如く」に傍線]して」、荒びなゆきそである。
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あたひなき宝と言十方《イフトモ》、一坏《ヒトツキ》の濁れる酒に、豈まさらめや(同巻三)
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無価宝珠と言ふとも、宝ならざる[#「宝ならざる」に白丸傍点]如く、一坏の酒にはまさらじと説くべき過程を経て、
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