主題としようとするのではない。だが、一つの前提として、此から解説して置かねばならぬ気がする。此は、霜・雪を以て序歌としてゐる。露を以てするものも、あつたのである。言ふまでもないが、万葉集にある例は、極めて倖にして残つたものであつて、この外に幾万倍の実際作例があつたに違ひない。所謂「文法」において扱ふ所の、除外例なるものが、当時に却て通例だつたかも知れない。譬へば、「けなばけぬかに」などにおいて、殊にそんな心構へを持たねばならぬといふ心持ちがするのである。其と今一つは、此「かに」系統の発想法は、散文には見出し難い事ではなかつたかと言ふ事である。律語が文章の主要形式であつた時代だから、未完成であつた散文体に、此一類の類型を持ち込むまでには、まだ到つて居なかつたのかも知れない。
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わが宿の夕影草の「白露之|消蟹《ケヌカニ》」もとな思ほゆるかも(万葉巻四)
秋づけば、尾花が上に「置露乃応消毛《オクツユノケヌベクモ》」吾は思ほゆるかも(同巻八)
……心はよりて「朝露|之消者可消《ノケナバケヌベク》」恋ふらくも 著《シル》くもあへる隠りづまかも(同巻十三)
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