ったり、平凡になったりして動揺して行く。其姿を大きな波のうねりの様に、まざまざと書いている。
此外に、表面は源氏の実子になっている、薫君と言う男の子がある。母は源氏が年いってからの三番目の北の方で、朱雀院の御子《みこ》、女三宮《おんなさんのみや》である。源氏の若い頃、藤壺[#(ノ)]女御との間にあった過ちと同様、内大臣の長男柏木と女三宮との間に生れた子である。源氏は其事を知って、激しい怒りを、紳士としての面目を保って、無念さをじっとこらえ通している。
時経てから、源氏が出た或酒宴で、柏木も席に列《つらな》っていたが、内心の苛責《かしゃく》から、源氏に対して緊張した態度をとっている。其が却《かえ》って源氏の心の底の怒りに触れて来る。そして源氏は柏木を呼んで、酔い倒れるまで無理強いに酒をすすめる。柏木は其が原因で病死する。源氏が手を下さずして殺した事になる訣《わけ》だ。殺すという一歩手前まで迫った源氏の心を、はっきりと書いたのが、若菜の巻の練熟した技術である。美しい立派な人間として書かれて来た源氏が、四十を過ぎて、そんな悪い面を表してくる。此は厭《いや》な事ではあるが、小説としては、扱いが
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