つれないものになって行くのである。極単純な感情だが、物語の主人公の反対者は、悪い人間である様な感じを持つものである。昔の人は、其をもっともっと強く感じたであろう。主人公である限りは、はじめから善い人にきまっていたのである。古い註釈書には、弘徽殿女御を悪后と言っている。この右大臣家にも、たった一人源氏に対して深い好意を寄せている人が居た。六番目の娘で、後、朧月夜尚侍《おぼろづきよのないしのかみ》と言われた人である。偶然の機会、照りもせず曇りもきらぬ春の夜に源氏と出あったのだが、右大臣家では間もなく宮中に入れようと思っていた娘に、敵の様に思っている源氏がおとずれしていた事を知って、非常に大きな問題になる。其結果源氏は須磨へ追放される事になってしまう。昔の物語の書き方では、貴い人をきずつけるような噂はせぬ礼儀になっているので、源氏の場合も、京に居づらくなって、自ら須磨へ行った事になっている。其上、代々の源氏読みの習慣では、流されたものと見て来た。源氏の亡き父桐壺帝が、源氏を憐れに思って、朱雀院《すざくいん》の夢に現れて嘆かれるので、間もなく京へ呼び返される。其後は、源氏の勢力が俄《にわ》かに
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