り事であるとは言える。又若い頃の悪事が、再自分の身に報いて来る因果応報の物語であるとも言える。然し作者の意図せない意図と言うものがあった。其は今言ったような所にあるのではなく、もっともっと深いものを目指していたのである。学者は其を学問的に説明しようとし、小説家は其に沿って更に新しい小説を書こうとして来た。源氏物語の背景にしずんでいる昔の日本人の生活、更に其生活のも一つ奥に生きている信仰と道徳について、後世の我々はよく考えて見ることが、源氏を読む意味であり、広く小説を読む理由になるのである。
○
源氏物語の中に持っている最大きな問題は、我々の時代では考えられないほどな角度から家の問題を取り扱っている事である。一つの豪族と、他の豪族とが対立して起って来る争いを廻って、社会小説でもなく、家庭小説でもなく、少し種類の異った小説になっている。島崎藤村などは晩年此に似た問題に触れてはいるが、それ程深くは這入《はい》って行かなかった。平安朝は、そうした問題が常に起っていた時代であり、闘争も深刻であった。従って源氏物語も、常に其問題を中心として進められている。最初は源氏の二十歳前に起って来
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