あるので、為方なしに土地の精霊が、誓約のしるしに、此を行うて見せたのだとも考へられる。あちこちの地方で行はれて居るものを見ると、此が殆、混同して行はれて居る。しかし、大体に於いて、かういふ風にしろと見せて行くのと、私の方では、かういふ風に致しますとして見せるのと、此二つの様である。勿論、さう論理に合ふ様には、どこでだつて行うて居ない。
とにかく、この行事は、神或は神の資格を有するものによつて行はれる。その神は、尉と姥との形をして来るのが普通であるが、ところによつては、違うた形のものもある。東北地方では、妖怪の姿に変つて居る。大黒・夷の出る地方などもある。神楽では、この尉と姥とが、猿田彦と鈿女とに変つて居るが、この二人に変つたのには、訣がある。それは、此二人が擁き合ふところがあるからだ。此二人の役の主たるところは、其点にある。昔の人は、其を見て、ほがらかな喜びを感じたのだと思ふ。
四 田遊びに出る翁と媼と
歴史の上では、この尉と姥とに就いて、たつた一つだけ、似た例のあるのが、見られるやうである。近世まで跡を引いた、民間に伝承せられた民俗の方では、爺婆の出て来るのは、殆普通の
前へ
次へ
全16ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング