られ、大神楽にもなつたので、今では、悪魔を退散させるものゝ様でもあり、悪魔そのものでもある様な、訣の訣らないものになつてしまうてゐるが、此の出て来るにも、種々な意味があり、多くの変化があるが、其種の一つは、鹿である。古くは、鹿・猪、共にしゝ[#「しゝ」に傍線]と言うた。肉《シシ》の供給者の意である。さうして、鹿は、農村を荒す動物の代表物と見られて居たので、随つて、悪霊の代表とも見られ、此を謝らして、農作の保証をさせる所作が、古くからあつた様だ。
日本の芸能の上では、此が面白かつたと見えて、いろ/\なものに、其が採り入れられて居る。鹿と獅子との合同した跡は、極めてはつきりして居る。決して突然に、あんなものが出来た訣ではない。勿論、此鹿の謝罪誓約が、獅子舞ひの全部ではない。鹿の降伏する所作を持つた舞ひの上に、獅子舞ひが入つて来たとも見られる。とにかく、古く日本の芸能に、鹿の謝る所作を持つたものゝあつた事だけは、万葉集を見ても訣る。万葉集には、鹿の謝る歌が、長歌に一首、旋頭歌に一首と二首も、それがある。
駒は、獅子に対する狛《コマ》犬である。今は神社にだけ残つたが、元は、貴族の間に使はれて居
前へ
次へ
全16ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング