三 竪橋との関係

次に誰でも承認しさうな例は、はしだて[#「はしだて」は太字]である。天梯立など言ふと、今も、我々の中に生きた語序として歴然として残つてゐるのだが、おなじ古廃語らしい感じにある「かけはし」(桟)「いははし」「つぎはし」などとは、全く別の素質を持つてゐることが考へられる。普通、橋が横(水平)か、勾配を作つてか懸けられてゐるのに対して、竪《タテ》(垂直)に上屋や屋上や、又軒先から上の空にかけられることがあり、時としては信仰の上から――その場合が却つて多いのだらうが、屋上の虚空を横ぎつてある地点に渡されてゐるものと考へた――さう言ふ橋に到るまでも、(まだ間木《ハシ》と言つた語原観を意識しながら)はしだて[#「はしだて」に傍線]と言つてゐた。我々はやゝ遅れて、梯《ハシ》の子《コ》・はしご[#「はしご」に傍線]と言ふ愛称を加へた語ととり替へるやうになつた。かう言ふはし[#「はし」に傍線]の両語序に渉つて聞える様に出来てゐるのが、くらはし[#「くらはし」に傍線](倉梯)である。空想上の天の梯を、さう頻繁に考へなくなつた頃に、倉梯立と言ふやうな語原意識を持つたまゝで
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