ふが、天津国光彦々瓊々杵と言ふ風にも説ける。)かうした神名を表出する宗教的恍惚時の心理は、潜在する印象の錯出するものだから、単純な一方的な理会をしようとすることの方が、却つて不安を誘ふ。
何にせよ、長い伝承の間に、語序が入り乱れて、ひこ[#「ひこ」に傍線]の用語例さへ明らかでなくなつたのだが、此だけは言つてもさし支へがない。
逆語序時代には、ひめたゝら[#「ひめたゝら」に傍線]同様、語頭に来てゐたものが、正語序になつては、語尾に移された。併し尚古典感の極めて固定してゐたものは、語頭に留めておくと共に、正語序時代の方法によつて、今一つ同様な語を、据ゑることになつた。其為に、『ひこひこ(彦々)』の場合の如く、唯古典感を添へるだけのものになつて残るのである。
彦穂は、ひこほ[#「ひこほ」に傍線]と熟してゐる語のやうに普通考へて来てゐる。併し此も、ひこ[#「ひこ」に傍線]とほ[#「ほ」に傍線]とは元は結合してゐたものでない。やはりひこ[#「ひこ」に傍線]は逆序の「ひこ……」であつたのが、後に、たとへば天つひこ[#「天つひこ」に傍線]と言ふ様に正序の考へ方から、上の語について来た。さうした段階を
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