6]草葺不合尊)
[#ここで字下げ終わり]

「彦」を名頭《ナガシラ》に頂いた人名(神名)は、単に之に限らず相当に多いが、大抵は、純然たる逆語序時代に固定したものが、忘却の時代に入つて安定状態にあると言つた風のおちついた語感を与へてゐる。だから、かうした人名が行はれ、固定し、運搬せられて来て、死語化した歴史を、一語々々が示してゐると言つても、言ひ過ぎではない。殊に神名の系統の語の中には、旧語序によつて出来てゐる語の形に倣つて出来た――たとへば奈良時代前になつたと見える新しい古典語などもあつたらしい。中には、くにぶく彦・さしり彦・いつせ彦・さしま彦など言ひかへても、元の名の持つた感覚をうけとることの出来さうな種類もあつて、多くの古代人名の間には旧語序から新語序におき替へて伝つたものもあることを思はせてゐる。併し書物に残つた多くは、新語序時代には、すでに静かに固定して、さう言ふ風に言ひかへる必要がなくなつてゐたのであらう。
殊に、ひこいつせ[#「ひこいつせ」に傍線]の場合は、五瀬命を、古い語序では成程さう言つたらうと思はれるものがある。即、五瀬命或は「五瀬彦[#(ノ)]命」と言ふべき所であ
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