・祝詞分化以前のもので、どこまでも宣命に近い様式と、内容とを持つたものと考へられる。
こゝに更に明らかに、のりと[#「のりと」に傍点]とよごと[#「よごと」に傍点]との対立の姿が、現れて来る。いづれにしても、今在るものは、悉く第一義の古い詞章ではない。唯伝承を信じれば、寿詞は、大嘗祭の行はれる毎に、中臣[#(ノ)]神主の奏上した「中臣天神寿詞《ナカトミノアマツカミノヨゴト》」と、「出雲[#(ノ)]国[#(ノ)]造[#(ノ)]神賀詞《カムヨゴト》」とが極めて久しい伝来のものと思はれてゐる。が、詞章の部分々々には、必しも第一次の姿でもなく、古代さながらの形だとも言へないものがある。唯通覧した外見に、極めて古式な情調を保留してゐると言ふのが、一番当つてゐるだらう。
勿論意識して詞章を改作することは、神授詞章に対する冒涜になるから、昔の人の能くする所ではないが、古語の忘却が、次第に無意識の変化を促したのである。而も、一方には、詞章の神秘性を絶対に信じてゐる為に、意識不明のまゝに固定した句・文・段が、移り行く詞章の上に、化石の如く残つたのである。此が即、祝詞寿詞の上に見える解釈法の及ぶ所と、其及
前へ 次へ
全63ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング