もある。其故、書かれざる詞章として、長い年代を経たに違ひない。其が種類、用途によつては、其詞章の人目に触れることを避ける必要のないものが、相当にある。宮廷や、官庁に、公式の儀式に用ゐられる詞章の如きは、常に人の耳の多い事を予期して、唱へられてゐた。だから、宮や官の「大事」に当つて、用ゐられるものは、秘すべき性質のものではない。此種のものは、相当早く筆録せられて居たに違ひない。大分遅れるが、延喜式詞章の如きは、すべて公然発表をくり返した詞章である。だから呪詞はまづ、神秘観を失つたもの、公式なものから、固定の機運が到ることになつた。中には、絶対に筆録の拒まれたものがあつて、此が天津祝詞の名を以て伝へられたのであらう。
此まで祝詞の類を分類するのに、宣下式のものと、奏上式のものとに分け、又此祝詞に対するものとして、宣命を考へてゐた。さうして別に、寿詞《ヨゴト》に注意を向けた人は、祝詞の古いものだと称してゐた。勿論祝詞に宣下・奏上両方面のあることは、固よりである。併し元来がのりと[#「のりと」に傍線]に両方面あつたのでなく、のりと[#「のりと」に傍点]の名称の範囲が拡つて後、両方面のものが、併
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