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「……天つ宮事《ミヤゴト》もちて、大中臣、天つ金木《カナギ》を本うちきり、末うち断ちて、千座《チクラ》の置座《オキクラ》におき充《タラ》はして、天つ菅曾《スガソ》を本刈り断ち、末刈り切りて、八針にとり辟《サ》きて、天津祝詞の太祝詞事を宣れ。かくのらば、ヽヽヽ」――六月晦大祓
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「ヽヽヽ」は、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]の別に唱へられることを示してゐる。此間に、斎部が呪詞を唱へて、呪術を行ふのである。
鎮火祭《ホシヅメノマツリ》・道饗祭《ミチアヘノマツリ》の祝詞などは、最後に、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]云々の文句がついてゐるので、本文がすべて天つのりと[#「天つのりと」に傍線]らしく見える。が、其祝詞以外に、呪詞を別に唱へしづめたのである。
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「天の下よさし奉《マツ》りし時に、ことよさしまつりし天都詞《アマツノリト》の太詞事《フトノリトゴト》を以ちて申さく、神いざなぎ・いざなみの命……ことをしへ悟し給ひき。此によつて……進《タテマツ》る物は、……横山の如く置き高成《タカナ》して、天津祝詞の太祝詞事を以ちてたゝへ、辞《コト》をへまつらくと申す。」――鎮火祭
「……親王たち・王たち・臣たち・百官人たち・天の下の公民に至るまでに、平らけく斎ひ給へと、神官《カムツカサ》天津祝詞の太祝詞事を以ちてたゝへ、辞をへまつらくと申す。」――道饗祭
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鎮火祭の方は、如何にも、祝詞の大部分が、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]のやうに見える様な形になつてゐるのだが、道饗祭の分を参照すれば、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]は、別に唱へられた事が推測出来る。つまり、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]に移る部分と、其がすんで本文に還る処との継ぎ目の様子が、変化して来たのである。殊に最後の「天つのりと云々」の続きあひを見ると、其が知れるであらう。
併し若し万一の偶然に依頼してよければ、鎮火祭の祝詞の火産霊神の生れ、其神の威力を防ぐ為の呪物を母神が教へられたと説く部分は、天つのりと[#「天つのりと」に傍線]なのかも知れぬ。若しさうならば、愈天つのりと[#「天つのりと」に傍線]と言はれたものゝ本体を知ることが出来るのである。
さうでなくとも、察せられることは、ある呪術に直属した短い詞章に、天
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