古く見れば、宣詞その物が、主神自身の「出自|明《アカ》し」であり、対象たる精霊の種姓を暴露すると謂つた、内容を持つてゐたものなのだ。其形が、次第に寿詞の方へ移つて、宮廷に奉仕する家職の歴史的関係を、奏寿者から説くこと、益《ますます》明細なるに到つたのだ。此が、伝承詞章における、歴史的内容の出発点である。この寿詞の集注せられる所は宮廷だから、宮廷の歴史は、実は、氏々・国々の寿詞の綜合であつた、と言ふことが出来る。或は、国の古代史に、政治的変形の存在を、主張する人がある。古代史が多く、為政者の作為枉曲を含んでゐるとするのである。其を認める人々も尠くはない。けれども事実は、あまり考へな過ぎたもの、と言はねばならない。宮廷自体の歴史的伝承の固有せられたことは、勿論信じられるが、多く常に、旧来附属した他国・他氏の伝承自身に述べる所を纏めて、形づくられて来たものと見るのが、本道なのだ。さすれば、諸国・諸氏に関する宮廷の歴史は、諸国・諸氏自身の、曾ては自ら信じ、自ら伝へて居たものだといふことになる。疑ふべきものがあれば、其出た本国・本氏の伝承の上にあるとせねばならぬ筈である。
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