詞《ノリト》が全体を掩ふ用語となり、よごと[#「よごと」に傍線]は、其一部分のものとなつて了つたのだ。此も、対照的に見ると訣る。のりと[#「のりと」に傍線]であるべき宣命が、人間――又は人間であつたもので、尚生きて居ると信ぜられるもの――に対して宣せられる、宮廷の臨時詞章に限られたのと同じ筋道にある。宮廷に対して、人間としての立ち場から奏上するもので、それ/″\の家の、宮廷に対する歴史的関係を説く、家伝の詞章であつた。
寿詞が、国々・家々・氏々によつて、複雑に分化して行つたと同時に、宣詞は、次第に単純化して行つた。数においては、寿詞的なものをもこめて、次第に増加して行つたにしても、形式も短くなつて行つた。だから一方、祝詞は、名はのりと[#「のりと」に傍線]でも、実は形式内容共に、寿詞的になつた訣だ。
叙事詩は、さうした意味ののりと[#「のりと」に傍線]正しくは、よごと[#「よごと」に傍線]から、次第に目的を開いて行つたものである。だから、叙事詩自身も、後々までも、呪詞的の効果を失はずに居た。言ひ換へれば、叙事詩でありながら、呪詞として用ゐられてゐた理由も訣るのだ。
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