分となることも、先に述べた呪詞の中の真言の場合と同じ形をとつて来るのであつて、歌なるものゝ発生は、極めて徐々として、力強い歩みを進めて来たのである。
新呪詞
我々は、祝詞を伝統的に古く見過ぎてゐる。今ある延喜式記載の形を、そのまゝ最古形と信じないまでも、其表現発想の方法を以て、文章詞章を通じての、日本式最古の形を保存したものと言ふ様に考へ慣れてゐる。だが、今ある此平安初期に記録せられた祝詞は、寧、奈良朝に製作せられた宣命よりも新しい形と、考へ方とを含んでゐる。宣命がその都度、新撰せられた様に、祝詞も亦、改作を重ねて来たことを考へねばならぬ。唯祝詞の場合、人事の――宣命における――如く変化甚しくないから、部分改作に止つたであらうが、宣命は、特殊な社会的境遇に立つ故に、常に変化して行つた訣だ。宣命と祝詞との似よつた点、更に万葉の長歌と、祝詞の修辞と、その近似を捉へて、先輩は、すべて祝詞の模倣と考へて来た様だ。だが、此は寧順序を逆にして見直さねばならぬ。だが一層、かう考へる方が、正しいものと言へよう。宣命自身、単なる擬古文に過ぎないものである。奈良朝の文法からは、既に、古文の
前へ
次へ
全39ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング