らなかつたのだ。舞踊は、鎮魂の手段として行はれたものである。あそび[#「あそび」に傍線]と言ふ用語例は、最古い意味において、鎮魂の為の舞踊である。歌の発生は先に述べたが、歌を謡ふことは、服従を誓ふことになるのであつた。歌を唱へることによつて、呼び起される所の――其々家国の守護霊なる――威霊を、その長上の体中に鎮定しようとする。其歌の形式は、長短・繁簡あり、――譬へば、片歌・旋頭歌・短歌と――時代によつて違ふが、精神においては、替る所がない。後代においては、舞踊にも演劇的要素を多く含んで来て、掛け合ひ形式を採る様になつた。譬へば、神遊《カミアソビ》――神楽――の人長・才男《サイノヲ》の如き対立を生じるが、其には、さうした演劇構造を採る理由があつた訣だ。
演劇は、日本の古代に於いては、掛け合ひを要素とするもので、寧、相撲《スマヒ》の形式に近いものであつた。其主体となる神に対して、精霊がそれをもどく[#「もどく」に傍線]行動をして、結局、降服を誓ふ形になつたのが、次第に複雑化したものに過ぎない。その精霊が、男性であり、女性である事の相違が、芸能としての筋に変化を与へる様になつた。だから、単純
前へ 次へ
全39ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング