ら演繹して来る外に、方法はない。だが其も、宣詞及び呪詞の幾種類かを比較して見ることによつて、或点までは確めることが出来るのである。

     二 宮廷及び邑落の生活

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(一)明神御宇日本《アキツミカミトアメノシタシロスヤマト》[#(ノ)]天皇《スメラガ》詔旨[#(ラマト)]、[#ここから割り注]謂[#下]以[#二]大事[#一]宣[#中]於蕃国使[#上]之辞也。[#ここで割り注終わり]云々咸聞。
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明神[#(ト)]御宇[#(ス)]天皇[#(ガ)]詔旨[#(ラマト)][#ここから割り注]謂[#下]以[#二]次事[#一]宣[#中]於蕃国使[#上]之辞也。[#ここで割り注終わり]云々咸聞。
明神[#(ト)]御[#二](宇)大八洲《オホヤシマクニ》[#一]天皇[#(ガ)]詔旨[#(ラマト)]、[#ここから割り注]謂用於朝庭大事之辞。即立[#二]皇后皇太子[#一]、及元日受[#二]朝賀[#一]之類也。[#ここで割り注終わり]云々咸聞。(以上、公式令、詔書式)
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(二)八月甲子朔、受[#レ]禅即[#レ]位。庚辰詔曰、現御神[#ここから割り注]止[#ここで割り注終わり]大八島国所知天皇大命《オホヤシマグニシロススメラガオホミコト》[#ここから割り注]良麻止[#ここで割り注終わり]詔大命乎《ノルオホミコトヲ》……(続紀、文武元年)
(三)二月甲午朔戊申天皇幸宮東門使蘇我右大臣詔曰|明神御宇日本倭根子《アキツミカミトヤマトシロスヤマトネコ》天皇詔……(大化二年紀)
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詔曰、明神[#(ト)]大八洲所知倭根子天皇大命[#ここから割り注]良麻止[#ここで割り注終わり]宣大命乎……(宝字元年七月紀)
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(四)大日本根子彦国牽天皇、大日本根子彦太瓊天皇太子也。天皇以[#二]大日本根子彦太瓊天皇三十六年春正月[#一]立為[#二]皇太子[#一]……七十六年春二月、大日本根子彦太瓊天皇崩。(孝元紀)
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日本根子天津豊国成姫天皇、少名阿閇皇女……(元明紀)
日本根子高瑞浄足姫天皇、……日並知皇子尊之皇女也。(元正紀)
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宮廷に於ける呪詞も此径路を踏んで発達してゐるので、令義解の解説――細字の部分[#「細字の部分」は割り注で処理]――は、必しも古い形を説明してはゐない。正確に言へば、此詔詞が最適切に用ゐられる場合は、即位式並びに元旦朝賀の時である。御代の初めの宣言を行はせられた即位式は、古くは大嘗祭と一つ儀礼である。一方、元旦は言ふまでもなく年の初めだ。即、御一代一度の行事が、一年一度の行事と一つだ、と考へられた事を示してゐる。而も、外蕃に対しての関心を持たない時代の詔詞は、大倭根子天皇なる御資格を以て、大儀礼を宣せられたのだ。其で「大倭根子……天皇」と謂つた御諡を持たれた御方々がおありになる訣だ。詔詞の始めに据ゑた御資格が、御生涯を掩ふ御称号となつたのである。
古代日本の生活は、必しもその一番大きな生活様式であるところの、宮廷の様式だけを論じてすますわけにはゆかぬ。各邑落に小さいながらも、同じ様式の生活があつたと見る事が出来る。断つて置かねばならないのは、言ふまでもなく邑落・種族によつては、全く違つた生活様式もあるのだけれども、だん/\上の生活を模倣して来る。此が、われ/\民族の古代生活に於ける、一つの生活原理なのだ。だから、宮廷の生活は、或点まで総ての貴族・邑落の君主と同様だと言ふことが出来る。其立ち場に立つて言うてゆけば、話が非常に簡単に進んでゆく。宮廷生活に依つて、民間の生活が見られると共に、邑落の生活から、逆に、宮廷の生活の古風を考へることが出来る。
邑落の生活、或は後々の貴族の生活で見ると、異人になつて来る者は、多く其家の主人であつた。其を接待する役は、其人に最《もつとも》血族関係深く、呪力を持つ女性が主として勤めてゐた。処が、日本の神道に於いては、女性の奉仕者を原則とするものゝ上に、更に、家長を加へたものが段々ある。其で宮廷に於いては、尠くとも天子は、大祭の際にはまれびと[#「まれびと」に傍線]であり、あるじであると云ふ矛盾した而も重大な立ち場に立たれる。此が宮廷に於ける主上が、祝詞を発せられる根本の理由だ。だから、祭事に参与する宮廷の高級巫女は、主上の御代役をしてゐる方面もある。
其宮廷の祭に於いても、主上が人々の上に臨んで宣布せられる詞章は、元《ハジメ》の代《ヨ》に、一度来臨した尊いまれびと[#「まれびと」に傍線]の発言せられた、と信じられて来たものなのである。其が、世が進み、社会事情が複雑になるにつれて、大同小異の幾種
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