「ものゝべ」に傍線]なのである。
ものゝべ[#「ものゝべ」に傍線]のもの[#「もの」に傍線]が、霊魂であることには疑問はない。更にわれ/\が云はうとする物語――叙事詩――なる語が、やはり霊魂の感染であるらしい。祝詞や宣命に現れる物知《モノシリ》なる語も、精霊の意志を判断する人と云ふ事である。其もの[#「もの」に傍線]の利用のうち、強い霊魂を所持する部族が其威力を持つて、来り襲ふ他の種族の守護霊を駆逐する職が、ものゝべ[#「ものゝべ」に傍線]と言ふ事になるのだ。さうしたものゝ信仰が最大切に考へられて、専、其に関した聖職を物部が奉仕する、と考へられる様になつたと見ねばならぬ。
ものゝべ[#「ものゝべ」に傍線]の文学に関与してゐる側から云ふと、物部氏の複姓なる石《イソ》[#(ノ)]上《カミ》に附属した呪術は、古代に於ける各種の鎮魂法のうち、最重く見られる筈の長い伝統と、名高い本縁とを持つてゐたのだ。さうして、其鎮魂に伴ふ歌が、叙事詩に対する呪詞と同じ意味の新しい形であつた。世に伝るところの鎮魂歌は、大体に於いて、石[#(ノ)]上系統のものと見てよからうが、尚若干の疑問がある。古い鎮魂歌の替へ歌とも称すべきものが処々に散見してゐる。
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虎にのり 古家《フルヤ》を越えて、青淵に鮫龍《ミヅチ》とり来む 劔大刀もが「境部王詠数首物歌」(万葉)
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かうした一種の創作も、平安朝まで残つて鎮魂歌――即、神楽歌の替へ歌――として用ゐられた、
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石[#(ノ)]上ふるやをとこの大刀もがな。くみのを垂《シ》でゝ、宮路《ミヤヂ》通はむ(拾遺)
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の歌を参照すると、時代は前後してゐるに拘らず、一方には遥かに古い形が残り、他方には其非常に変化した姿を出すと云つた、民間伝承の特異性を示してゐる。其と共に、万葉の歌が拾遺の歌によつて、稍《やや》原意を辿る事が出来さうだ。
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是に二嬪恒に歎きて曰く、悲しきかも、吾が兄の王、いづくに行きけむと。天皇、其歎きを聞きて、問ひて曰く、汝、何ぞ歎けると。対へて曰く、妾が兄・鷲住王、為人、強力軽捷なり。是によりて、独り八尋屋を馳せ越えて遊行《ユギヤウ》し、既に多日を経て面言することを得ず。故に歎くのみ……(履仲紀)
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同時に、ふる[
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